2009年10月09日

愛乏しき社会から犯罪が発生する

囚人に優しいノルウェー社会
       どんな人間でも人間なのです
                                    矢沢 俊彦

  ・・・拷問にも等しい劣悪な環境におかれて、人間は真に立ち直ることができるものでしょうか?自分にも人にも優しくなれるものでしょうか?
・ ・・・犯罪を犯す人は、周囲の差別や蔑視、また貧困などで傷つき、もう十分苦しんでいる、最大の社会的弱者なのです。

・            犯罪の激減に導いた人
★ 公正な裁判はいい。犯罪者に優しいのもいいだろう。でも被害者の気持はどうなんだ、という声も聞こえてきそうです。それを十分受け止めながら、「一番大事なことは、犯罪のない社会を目指すことではないか、そのためにこそ、罪を犯してしまった人も、自分たちとなんら変わらない人間であることに気がつかねばなりません」。
★ こう話すのはニルス・クリスティーさんというノルウェーの犯罪学者。この人が中心的指導者となってこの国の刑務所制度を大改革、その結果犯罪は激減しているというのです。彼は世界中の刑務所をまわり、沢山の受刑者と向き合いながら実践を深めてきただけに、その語られる言葉は明晰で大変分かりやすかった。そしてその大らかな人間性、人間観察の確かさに、私は大変感動したのです。これはさる9月30日夜放映の、「未来への提言」と題されたNHKの番組です。、

                 受刑者とスキーをしたり
★ 犯罪者というとなんとなく不気味で、特別な人達と見られがち。でもそれが大きな先入観や偏見であることが私にも分かりました。よくある人相写真はまずい、と私は思いました。「彼らと一緒にスキーなんかする。刑務官が変な格好でころんで大笑いする。その逆もあります。そんなことを通して、彼らもごく普通の人間であることを理解しあうのですよ。野獣やモンスターなんかいません。
★ 「厳罰主義は正しいか、と私の国でも長く議論を重ねています。でもあるテレビ番
組の討論会の会場は刑務所でした。それに受刑者も参加し、いろんな人達と討論している。かれらの言い分も、敬意をもって聞かれている。問題は私達があの人たちを知らないこと、ふれあうチャンスがないことにあると思うんです」。

おしおきで人は変わるか    
★ 愛されてこそ人は育つ。思いやりを受けて、他人を思いやれるようになる。
このことはみんな知っている。子育て中の親もみんな知っています。でも、この自明の原理をなぜか犯罪者には適用しない。いや、家庭でも学校や地域でも、このことが忘れられ、「おしおき」で人を変えられると思う。こうした錯覚が長い人類の歴史で当たり前のように行われてきた・・・拘束と隔離・厳罰・懲らしめあるいは拷問。でもその結果は・・・・?
                開放された刑務所に驚愕
★ クリスティーさんが紹介してくれたオスロなどの刑務所は、驚くべきものでした。ま
ず友人や刑務官も一緒のくつろいだ昼食風景。一般家庭と変らず、テレビ・パソコンやステレオはある、冷蔵庫には新鮮な野菜などいっぱい。自分でも色々料理ができるそうです。景色のいい島でも、外出の自由はあるし、休暇をとって定期船で家族に会いにいくこともできる。その船の操縦にも、受刑者が加わっている。いろんな人に会えるし、図書館や、教会も開かれている。希望者は大学レベルの教育も受けられる!そしてなにより大事なことは、ここで互いに協力して生きることを学ぶことだ、というのです。

                悪党にしたてあげる刑務所
★ 私はこの番組に降参してしまいました。全くもってその通りです。生まれつき
の凶悪犯なんていない。いや、きっかけさえあれば、誰でも何をしでかすか分かりはしない。そうなれば自分の家族もふくめ、周囲みんなから白い目で見られ、悪人のレッテルを貼られ、連れて行かれたところは言わば「悪の学校」。頭を坊主にされ、囚人服を着せられ、劣悪で不快な環境での日常生活。その気もないのに悪党に仕立てられるうちに、反省もできず、逆に社会への憎しみさえ培養させられていく・・・・。

                  囚人にいい環境を与えよ
★ これを見ながら私が考えたこと。・・・・獄に入れられた囚人は「反省」や自己凝視を迫られます。でも自分の心の深みを見つめる、そこにあるドロドロしたもの、あるいは醜いものと向き合うのは苦痛でしんどいこと。それにはとても時間がカかる。
そしてそのためには懲らしめるのではなく、逆に「いい環境」、つまり、いい人間や自然、また情報や芸術などにじっくり触れることが必要ではないか。
そしてもうひとつ。思いやりを受けること。他人の暖かい心に抱きしめられてこそ、人間らしい自分に立ち返ることができる・・・・・愛されてこそ人は育つ、という単純なことです。でもこれを受刑者にも適用しているノルウェーの実践は、全く目を見張らせられます。

                冷たい社会こそ温床では
★ 「北風と太陽」というイソップの童話があります。人をよい環境におくなら、黙っていてもいい方向に向かうだろう・・・・こういうおおらかで楽観的な人間観がクリスティーさんには流れているようです。「受刑者は差別や貧困その他で、もう十分傷ついている社会的弱者なのです」。
★ この人のもうひとつの提言。・・・・・犯罪は地域社会で起こります。だからその地
域での話し合いで解決できれば一番いい。裁判になっても、その地域の事情に通じた民間人が加わる、これをノルウェーではもう100年
も前からとりいれています。注意しないと、法律の専門家が、かえって地域住民から問題解決力を奪う「盗っ人」になってしまう・・・・大変なことばです。
「まず私達は隣に住む人々へ関心をもつことです」。さらに受刑者の家族を支えること、大事な問題を社会構成員みんなで討論するという風土伝統について、など貴重な提言が続きました。

                 私達の無知と偏見
私の結論。被害者を出来るだけケアするとともに、改めるべきは、囚人への私達の偏見です。彼らは私達とどこも変わってはいない。ただ境遇や状況が悪かっただけです。とにかくこの社会を血の通った暖かいものにしなくては。犯罪は社会が生み出すもの。囚人はもちろん、問題を起こす青少年の家族にも優しくしたい、と思いました。愛によって人間は育つ。こういう思いにまで導かれて、私はなんだかとても明るい気持になりました。よーし、めげずに夢の持てる日本にしよう・・・・。
最後にマスコミについて。犯罪者の正しい理解には遠い現状ですが、今回のように高い価値観を伝える素晴らしい放送番組の持つ大きな力を思ったことです。

★ なお、クリスティーさんにインタビューし、メッセージを引き出してくれたのは、
森達也さんという研究者。彼は、あのオウム真理教の信者たちの中に入り、その内側から彼らを見つつ、犯罪者への厳罰主義に疑問を感じてきた人です。
それからこの文中の引用文は、テレビで語られたものそのままではないことを御了承ください. 
(鶴岡市本町3丁目5-37 日本基督教団荘内教会牧師・同保育園長)





Posted by 矢沢牧師 at 08:05